トリビア・ジャーナル809
★漢字の書体のなかで、隷書とか篆書は見た目が美しいので好きだ。わが家の表札は、篆書で彫ってもらった。このようなものを、パソコンのフォントに加えたいとまでは思わない。全文をこのような書体で書いても、読みにくい。かつてのドイツ語のひげ文字と同じで、あくまでデザインとして少数の文字群として使うときにのみ効果を発揮する。このような文字サンプルはインターネットでも見られるが、特定の漢字を広く捜そうとすれば、字典的なものが望ましい。そういう大型本は何万円もするし、わが家には常備していないので、近くの新宿区中央図書館に行った。この類の参考書の蔵書も、かなり充実している。『隷書大字典』(角川書店)は854ページもあって、1万5540円。私の今回の目的は、ひょうたんの飾り文字を捜すことなので、縁起のいい文字、たとえば「松竹梅」とか「雪月花」とかを拾った。だが飾りという意味では、画数の多い正字の「亀」とか「龍」、「鼎」や「鳳」も、パターンとしてはカッコイイ。これは意味の分からない外国人にとってもデザインとして変わっているから、漢字を書いたTシャツにも人気がある。図書館で見つけた『伝統書体字典』(グラフィック社、1万2600円)という本も、美しい造形の漢字を探すには好適だ。大型の本で、見開きに7つの書体が併記されている。上から、楷書、行書、篆書、隷書、籠字{かごじ}、勘亭流、髭文字だ。しかも、画数でなく、音読みで引ける。次に考えたのは、特異な書体を書くには、特殊な筆記具もあるのではないか、あるいはそれに適した筆もあるに違いあるまいという気がするので、それも文具店や筆屋さんで捜してみようかと思っている。
★承前。ひょうたんに描くのは、本来は文字よりも絵のほうが訴求力が強い。実は漢字も試してみたことはあるが、絵のほうがだんぜんアピールする。だから、昨年のキリンの親子は、欲しがる人が出るほど人気があった。ひょうたんはこのキリンのように、形で勝負する場合と、そこに何を描くかが勝負の分かれ目の場合とがある。今年、収穫が期待できそうな巨大瓢は、そこに何を描くかがポイントだろうと思って、材料を捜している。机の上に収穫前の写真が飾ってあり、つねにアイディアを刺激しているのだが、考えてもボツになるケースのほうが多い。「日本おとぎ話はどうかな、たとえば桃太郎や浦島太郎のストーリーを複数シーンのオムニバスで示す」。「ウーン、イマイチ」。「トーテムポール見立てで、ティキやラーなどのおどろおどろしい神の像をタテ並びで羅列する」。「ウーン。おそろし。もっと、かわいいほうがいいな」。「マーメイドは?」「ありゃ、海のものだから、ひょうたんには向いていない」。「じゃあ、架空のイキモノで、ペガサス、あるいはケンタウルスとかサチュロス、フォーンのような、半人半獣」「グロだな」。「しかし、ディズニー映画の『ファンタジア』に出てきたような、ベートーヴェンの田園シンフォニーで踊る牧神パンの夫婦{めおと}と子どもたちのように、ほほえましいのもあるよ」。でも、ディズニーは版権がうるさいから、たとえ個人の趣味でも、もろにコピーは好ましくない。そのアイディアだけ借りて、デフォルメしようかな、などと、ファンタジアは尽きないのであります。
★昔は外国に行ったときに必ず地図を買い求めて、ファイリングキャビネットに区分して収納しておいたものだった。のちのちの取材や原稿執筆の際に役立つからだった。だがいまではそれがナンセンスになってしまって、すべて捨てる運命。地図、とくに都市部はどんどん変わるし、それに対応してグーグルその他、インターネットでいくらでもアップデートした情報が得られる。しかもそれを縮小・拡大までできるのだから、翻訳でもこれが便利なツールだ。でも大判地図帳もまだ役立つことがあるのでこちらは捨てず、世界地図・日本地図とも、ヨイショを声をかかけるほど重い地図帳をときどき持ち上げては併用している。 仙名 紀


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